調律師には、古くから築き上げられた調律技術とともに新たな技術の習得も求められています。
ここでは技術の向上を目指して進めている、技術書の翻訳事業や勉強会への参加について紹介致します。
ピアノ内部は約6000ケの部品が動き回り、温湿度や使用状態によって変化しているため、置場所の環境や使用状態によって故障や雑音はピアノ1台1台で異なります。また、マニュアルにない故障や原因不明の不具合を限られた時間で的確に直すことは大きな課題です。
ネット検索や多くの技術書を駆使し、わからない修理方法を調べていた中で出会った本が、アメリカの洋書「PIANO SERVICING ,TUNING,AND REBUILDING」です。
英語は専門分野ではありませんが、興味深い写真や図に魅せられ気付くと辞書を引いておりました。そして本書を読み進めると、今まで知られていないピアノの知識や認識されていても文章化されていないノウハウが詰まっていることに驚きました。また、これを基にした作業や説明によって、お客様の信用の高まりを実感するようになり・・・全章の翻訳に踏み切った次第です。
この本には、今まで知られていなかったピアノの知識や、文章化されていなかった多くのノウハウが詰まっていますので、修理に取り組むきっかけとなりピアノの音を更に良くしようとする意識が高まります。これによって、自分の技術や信用が蓄積されていくことを感じることができます。
本業の合間の地道な翻訳作業によって日本語翻訳書を出版致しました。
多くのピアノ技術者のみなさまにご活用いただければ、誠に幸いに思います。
原書:左から第1版(1976年)、第2版(1993年)、
仏版(2005年)、翻訳した最新第2版
日本語版翻訳書300ページ/A4サイズ 8章構成
第1版は1976年アメリカで初版。45000部発行。
2005年仏版出版時に、英語版60000部販売。専門書としてはベストセラー
主な部品だけでなく、フレンジやヒッチピンなど小さな部品まで、形状や配置がアクションの動きやピアノの音にどのように影響を与えているか、その役割やはたらきが詳しく解説されている。
作業の手順や便利な特殊工具の使用方法について、多くの図や写真でわかりやすく示されている。
また、使用される材料の種類や接着剤や薬剤の成分について、用途や目的に応じた特徴が説明されている。更にピアノの構造に関する変遷が説明され、中古ピアノの鑑定方法も学習できる
簡易修理とオーバーホールによるピアノの修理が本書の半分を占めている。更に故障の症状や、所要時間、修理費用に応じたメンテナンス方法が紹介されている。
著者の経験に基づく、事前準備や回避すべき注意事項、作業の安全性やクリーニングの重要性も説明されている。
ピアノの調律の変化や一本弦のうなり、スティックや種々の雑音など、不具合が発生するメカニズムと、それに基づく対策や解決指針が紹介されている。
この他、耳の感度を高める方法や、調律依頼者の満足度を高める方法について記載されている。
1968年イリノイ大学音楽教育機関にて科学技術の学士を取得。アメリカのピアノテクニシャンギルド(PTG)の登録正会員(RPT)。
オーケストリオン、コインピアノ、リプロデューシングピアのなどの自動ピアノの修理において、世界をリードする人物の一人。姉妹本「自動ピアノのメンテナンスとオーバーホール」など執筆。リブリッツ修復店経営、コロラド州コロラドスプリングス在住。
お陰様でご好評をいただき、ご購読いただきましたピアノ調律師の皆様をはじめ、ピアノ関連業者様、学校関係者様のみならず、興味関心を持っていただきました一般の皆様にも深く御礼を申し上げます。
出版より1年が経過したところですが、誤りがございました。読者の皆様に謹んでお詫び申し上げると共に、ここに訂正させていただきます。
正誤表はこちらからご覧ください。(PDF / 174KB)
この技術書で紹介しきれない多くの作業を補うため、技術セミナーへの参加や他の技術者と交流を持つことを、著者は強く推奨しています。
国内唯一の調律師の組合である日本ピアノ調律師協会関東支部では、「ピアノ技術書を読む(学習)会」が、日本の調律界をリードするベテラン調律師主導の元、定期的に開催されています。
2017年より継続して2020年もこの技術書「ピアノの探究」を3回/年、採り上げていただくことになりました。参加ご希望の方はお気軽にご連絡下さい。
2017年度より4年間14回に渡り、この「ピアノの探究」を取り上げていただき講師を務めさせていただきました。
昨年からのコロナ禍では、直接集合できなくなりウエブ学習会に切り替えたところ、関東エリアだけでなく北海道から九州、そして海外は中東オマーン、アメリカNYまで広がり、多くの調律師の皆様に参加いただくことができました。
ここに、日ピ関東支部本読み(学習)会担当役員さんに深く御礼申し上げます。
2021年度から本会は、ジュリアード音楽院調律師高久氏によって、スタインウエイピアノやアメリカの最新技術について新たに継続されております。
技術者の交流によって、さらなるピアノ技術の発展と共有、そして若い世代に継承されていくことを願います。
かつてのポーランド王の住居、政治文化の中心であった旧王宮大会議室...壮大な天井画、まばゆいばかりのシャンデリアに囲まれた会場にて開会コンサートが開催されました。2018年ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者トマシュ・リッテルによる演奏、ピアノはウイーン式シングルエスケープメントアクションGraf(1819)のレプリカ(2007)と、イギリス式ダブルエスケープメントアクションErard(1858)修復品のヒストリカルピアノ使用、つまりショパン時代にタイムスリップして真のピアノの音を追求しようという試み。この他、レオナルド・ダビンチ設計によるヴィオラ・オルガ二スタ製作、ご自身演奏でのコンサート、若いピアニストらのコンサートやジャズコンサートも開催されました。
今回の目玉は、フォルテピアノの世界的製作家ポール・マクナリティ氏によってショパン時代ポーランドメーカーのブッフホルツ(1826)レプリカ、ERARD(1821)、PLEYEL(1846)を使った整調、整音セミナーが国立ショパン研究所で和やかに実施されました。この他にも、名だたるヨーロッパの老舗各ピアノメーカー、ピアノ技術学校先生による技術セミナーも開催されました。
ワルシャワ郊外のヒルトンホテル会場には栄華を誇ったポーランドピアノを筆頭に、ドイツ、チェコ、北欧の国々など最新技術が導入されたピカピカのピアノが展示。日本からもヤマハ、カワイの各ピアノ、備品、工具等の関連会社も参加。そしてポール・マクナリティ氏によって製作されたフォルテピアノの数々。ポーランドのピアノ修復メーカーによるリニューアルピアノや珍しい構造のピアノも見逃せませんでした。
機械化が進むポーランド、カリシュのピアノ修復工場サップや、特別モデルを発表したシンメル、木の香り漂う中で昔ながらの手作りにこだわったオーガスト・フォルスター、新工場増設の活気に湧くベヒシュタイン、斬新なデザインピアノを手掛けるブリュートナー、スタインウエイ傘下となったアクション部品最大手レンナー社など、どこも技師さんが一つ一つ丁寧に作業されていたのが印象的。窓から見えるのどかな田園風景に、ピアノの音が溶け込んでいくような豊かな環境でお仕事できるのが羨ましいと思いました。
節約のため先輩とセキュリティ万全の民泊アパートに滞在。ワルシャワはノーマスク、家族連れや観光客が溢れ、一人歩きも問題なし。掃除洗濯は自分たちで、食事は外食と自炊を織り交ぜてワルシャワ住人になったような気分を味わうことができました。前回浜松大会で親しくなったポーランド調律師マリウス氏邸宅で奥様の手料理をいただいたり仕事場も案内していただき、楽しいひと時を過ごすことができました。
街のあちこちにウクライナ国旗も掲げられ、映画「ユダヤ人を救った動物園」の舞台となったワルシャワ動物園園長夫妻お屋敷(ナチスの危険の合図にピアノが弾かれた)にて戦争終結を祈ってきました。
不安定な社会情勢の中、無事生還を感謝すると同時に今回の経験を少しでも何かに役立てたいと思います...。また同行者や旅行社の皆様には色々ご協力いただきまして深く御礼申し上げます。
開催期間中、朝8時から1コマ1時間半のセミナーが毎日5コマ4日間組まれ、約30もの研修室は毎回どの部屋も半分~満席!セミナーの途中でも質疑が活発に行われ、年齢性別を問わず意見交換が盛んに行われておりました。
テーマはピアノの調律、整調、整音はもちろん、特に多かったのはピアノの修理やオーバーホールです。この他にも自動ピアノ、女性調律師の交流会、健康、ビジネス展開指導も見逃せないテーマでした。毎日ざっと三百人以上の参加者で賑わっていたと思われます。
展示ホールは、多くのピアノメーカーの他、調律工具類、チューナー、書籍、PTGグッズ、そして写真でしか見たことのない古い修復ピアノが展示されていました。ピアノはどれも試弾可能で、ピアノ技術者とは思えないほど演奏技術は高く、ピアノが心底好きな人達の集まりであることを感じました。
ピアノに関するセミナーだけでなく、セントルイスシティツアーやバドワイザービール工場見学、夜はPTG主催ラグタイムコンサート、カワイ主催ピアノコンサート、ヤマハ主催スイング(ダンスホール)、ピアノカラオケ大会、PTG有志によるバーバーショップコーラス演奏など賑やかな企画が盛りだくさんでした。
技術書の情報収集と勉強のため地球の裏側へ、出版の心配をよそにコンベンションのスケールの大きさ、参加技術者の多さ、セミナーや展示内容の多さ、ホテルのベッドの大きさなど、全てのスケールの大きさに圧倒されました。また、駒やピン板の修復のようにピアノのオーバーホール(小さな部品まで分解、修理を行い新品同様に戻すこと)に関してなかなか日本人技術者が行わない領域まで何の躊躇もなく手を加えていることに驚きました。
アメリカの大きな器に刺激を受けると同時に、日本の繊細さ、水準の高さと今後の展望を感じ、大変有意義な時間を過ごすことができました。